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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
物音一つしなかった。一望濁水に浸されて人影のない風物は、住民の絶望の深さを語った。
両手をしぼるように握り合わせ、窓外の景色から目を離せずにいるひろ子をのせて、列車は一時不時停車をし、それからは最徐行で進んだ。線路が全く水の下になってしまっているのであった。
進行する列車の車輪の下から、大きい水しぶきがあがった。ほとばしる水の音は、不安に殺している苦しい息を一時に吐き出すようなボボッ、ボボボという機関車の乱れた排気音に交った。
どうにか姫路駅まで辿りついた。緊張している乗客たちは、窓から首を出してプラットフォームを通りがかる駅員に、先の模様を訊いていた。ところへ、もうこれから先へは行けないそうだという噂が前部からつたわって来た。みんな立ち上って、騒然となった。その車の外を、若い駅員が、ちっとも親切気のない無関心な声で、
「みんな出て下さい。この列車は先へ行きませんよウ」
片手で帽子をうしろへずらしながら呼んで通りすぎかけた。すると、ひろ子の向い側の座席にいた四十がらみの痩せぎすの男が、さっと立って、
「おい君! 君!」
思いがけず野太い、人を服従させつけている者の調子で窓ごしにその駅員をよびとめた。