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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

「ここでいくら苦心したって、又どうせ東京で乗換えなけりゃならないんだもの」

「夜行でない方が安全だよ、同じことにしても……」

東側の縁側へ行って、ひろ子は例の行李を開いた。広島のことをラジオできいたとき、ひろ子はすぐ安否をきいてやった。きょうの速達は十八日に田舎の局のスタンプがおされている。ひろ子の手紙とはゆきちがった。そして、これは二十日目についた。

母やつや子が、直次のことを知ったのは、既に十一二日ごろのことであった。偶然、直次と同じ班の友達が、ふらりと、

「直次君、戻ってでありますか」と店先へ訪ねて来た。

「いえ、戻って居りませんが……どうでありますか」

話はそのようにして初めて耳に入ったのであった。

ひろ子は、行李の中のものをすっかり出して、大風呂敷へうつした。仕事の用意をすこしと、そして底の方へ喪服を入れた。

直次が、除隊後第一回の応召のとき、母はひろ子をつれて、わざわざ讃岐の琴平へ詣った。雨が降り出した。下の土産屋で、番傘と下駄とをかり、下界から吹き上げる風に重い傘を煽られまいとして、数百段の石段を本堂まで登りつめたとき、ひろ子は脚がふるえて動けないようだった。