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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

すこし落付きをとり戻したように、煙草に火をつけた。

「段々案外の不自由が出て来るもんでしてね。私には五つになる坊主があるんですが、片脚ちょんぎられた体では、もうその坊主を立って抱いてやるということが出来ないんです」

小さい息子に対して、自分のやりたい方法で可愛さが表現出来ないことを悲しんでいるこの片脚の人の言葉のかげに、ひろ子は、一層微妙に、妻への様々の思いが湧いていることを察した。ひろ子は、心からのはげましをこめて云った。

「お子さんは、坐ったまんまだって、高い高い、でもして上げれば、それこそ有頂天よ。お母さんでは、もう五つの坊やは、高い高い、出来ないんですもの」

すこし間をおいて、重ねて、

「ほんとに、御心配なさらないことです」

と云った。

「愛情は変通自在なんですもの、本当にどうにだってなるんですもの」

愛するということにきまった形しかないものなら、重吉とひろ子とは、どうやって十二年の間、夫婦のゆきかいを保って来られただろう。ひろ子はこの不幸な人の弱気を、うしろから押すようなこころもちでそう思った。二人の幼い息子をのこして義弟の直次に戦死された若いつや子は、形の上で断絶された愛を、これからどうやってもち越していったらいいのだろう。