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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

現在の本線は、その北を直線に徳山市へのびている。

東京駅の案内所でしらべたとき、下関行急行は朝の四時すぎ岩国へつく筈であった。そこで、支線にのりかえるのが順序と教えられた。

これまで幾度かその田舎の町へ来たとき、ひろ子は、広島でのりかえるのが習慣であった。待合所の食堂でたべた牡蠣の香ばしさも、名産レモンの黄色いすがすがしさも忘れていない。しかも、直次の三十四歳の生涯は広島で終らせられた。せまい町筋に大通りが多い広島市街の光景と、海に注ぎ入る河に架っている橋々も目にのこっている。

窓ガラスも電燈もない真暗な汽車の中で、眠ったりさめたりしているうちに、ひろ子は広島でのりかえて見たい気になった。

白絹も、広島でのりつぐのであった。

「どうです、あなたも降りられるんなら、そろそろ出ていましょうか」

通路に寝ひろがっている人々をまたぎ、膝をついてやっと大荷物の上を越し、リュックを背につけたひろ子は出入口のドアのところまで辿りついた。洗面所の中にも、接続板の上にも、ステップにさえ外向きに腰かけて、荷物と人が、女まじりに立ったり、しゃがんだりしてうとうとしているのであった。