轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

不幸とはそういうものだ。ひろ子は思った。ここで感情は破産させられている、と。

八

ひろ子が、初めてこの西国の村町に来たのは十二年前の一月初旬であった。正月の三ガ日がすぎるのを待ちかねて、ひろ子は東京を立った。その暮の二十日すぎ、重吉が検挙された。ひろ子が幾度足を運んでも、その警察の特高は重吉のための衣類の差入れをさせなかった。一九三三年の二月には小説家の小林多喜二が別の警察でではあるが拷問で殺された。その前後には、ひろ子がその名前だけをきき知っているような人々で、検挙とともに命をおとした人が幾人かあったのである。

寒中だのに、重吉のために着物さえもさし入れさせない。その一つのことは、なかで重吉がどんな扱いをうけているかを物語っている。ひろ子は、つき返された包みをかかえて、薄暗く凍って曲りくねった警察署のコンクリート階段をゆっくり下りて来ながら、重吉が生きているかどうかさえ、不安であった。母親に対してならば、いかな警視庁も重吉が生きているかどうかということだけは、明らかにする責任を感じるだろう。そこで、ひろ子は、急に東京駅を出発したのであった。