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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
濡れているうちは、余り薄くて色らしい色も見えないインクで網走への手紙をかきながら、これから帰るのは重吉であろうか、それとも七年の歳月を前線で経ている進三であろうか、とひろ子は考えた。新聞やラジオは、八月十五日から一ヵ月たったその頃、南方の島々で、ちりぢりばらばらに武装解除をしている日本の部隊名をつたえていた。進三の部隊長が、どうか普通の分別をもった男であるように。ひろ子は切にそれを祈った。敗北の噂をきいて、食物もない山中の獣の穴へ部下を追いこむ愚かものでないように。進三は重吉とまたちがったやりかたで人によろこびを与える若者なのであった。
母が、いつにもないそっとした様子で梯子をあがって来た。机に向っているひろ子を見て、
「おや、あんた、昼寝してじゃないの」
と云った。
「いいえ。おやすみになる? 枕出しましょうか」
「ええ、ええ」
言葉をきって、
「縫子はんが来ておってでありますよ」
低い声で何となしひろ子の顔色を見るように告げた。ひろ子は、奇妙な気がした。従妹の縫子は、ひろ子の東京の小さい世帯に一年半も一緒に暮したし、互に気があっていて、ひろ子がここへ来て縫子が訪ねて来るのは全くあたり前と思えるのであった。