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そうしゅ

操守

豊島 与志雄

「改造」1929(昭和4)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,418 字 · 20 页

青空文庫

何だか、「教会堂にはいって行く信者さん、」そういった風なものを思わせた。

座敷は大抵、彼の好きな、奥の階下の六畳……。殆んど口を利かなかった。吉乃が来るまで、一人で黙って酒を飲んでいた。女中の一寸した冗談口にも、蒼白い顔を赤らめることがあった。誰でも、だんだん図々しく場所馴れてくるものだが、彼だけは「丁度その逆様」をいってるようだった。或は、「吉乃さんに真剣に」なってきたかも知れなかった。然し不思議なことには、吉乃が例によって、ほかに出ていてなかなかやって来ないような時、彼は次第に気持がほぐれて、「ふだんの」彼になって、「賑かに」なることがあった。

吉乃の方も、少し変ってきた。やはりあけすけではあったが、その呑気者の彼女が、奥さん然と「勿体ぶって澄しこんで」いた。嬉しいのか困ってるのか、さっぱり要領を得なかったが、なんとなく「しっかりしたところ」が出てきた。

そして二人は、いやに「しんみり」してるというだけで、他の者には訳が分らなかった。繁々逢っていたが、仲はさはど「濃く」もなさそうだった。さほど嬉しそうもない逢い方で、さほど名残惜しそうもない別れ方だった。