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ぎたい
擬体
豊島 与志雄
「新潮」1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页
」
青木に声をかけて、それから室内を一通り見廻した。
「宮崎君、君はもう帰ってよろしい。」
宮崎は直立不動の姿勢をした。
青木は石村について社長室にはいった。
中央の大きな円卓をかこんで、長椅子や安楽椅子が並んでおり、壁には大小数枚の油絵があった。卓上には、ウイスキーの瓶や水差やピーナツが出ていた。石村が来客と一杯やっていたものらしい。
「さあ掛け給い。」
石村は青木に安楽椅子を指し示し、自分は長椅子にかけようとしたが、ちょっと小首を傾げて、事務室のとは別な扉を開けて出て行き、ウイスキーの新たな瓶を持って来た。そこの室には、女秘書の小島がいる筈だったが、それももう帰って行ったらしかった。この女秘書は、石村を直接訪れて来る客を取次いだり、茶を出したり、タイプライターを叩いたりする役目だ。石村はタイプの文書が好きで、それを叩く音がこの室にはのべつにしていた。
青木は石村と全く二人きりなのを知り、石村の応対が懇切なのを見て、これはいつもと違った用件だと悟った。
「引止めて、迷惑じゃなかったかね。」
「いえ別に……。どうせ酒を飲むぐらいな用しかないんですから。」