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ぎたい

擬体

豊島 与志雄

「新潮」1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页

青空文庫

」

青木は考え込む風を装いながら、内心では、いよいよ来たなと思った。近頃、石村証券の商売の方は至って閑散で、各会社の内情調査が主な仕事となっていたが、その代り、石村のところへの直接訪問客が目立って殖えていた。日本再軍備の問題が各方面で論議されるようになってから、それが殊に甚しかった。石村の室へは、廊下から、事務室の方の扉と女秘書室の方の扉と、二つの出入口があって、直接の訪問客はたいてい後者から出入したので、どういう人物かよくは分らなかったが、主として旧軍人の類であることは想像に難くなかった。第一、ここの主な社員たちにしても、もとを糺せば旧軍人か或は旧軍属だったのである。

青木が考え込んでるのを見て、石村は話の調子を変えた。

「君に思い当ることがないとすれば、まあそれでいいさ。酒場での酔っ払いの話なんかは、これは情報とも言えないからね。」

青木は頭を掻いてみせた。

「まったく、私はいつも酔っ払ってばかりいて、自分でも情けないと思っています。」

「情けないどころか、大した腕前じゃないか。酒ばかりでなく、女にかけてもそうだろう。」

「え。」

青木は顔を挙げて、石村の眼を見た。