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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「えッ」
主任は身体を乗出した。
「で、何かい死体に見覚えがあったとでも云うのかい」
「そうだと問題はないのですがね」
気の早い主任の言葉に石子は苦笑しながら、
「何しろ井戸の中に六ヵ月もいたのですから、判別はつきますまいよ」
「じゃどうしたと云うのだね」
「お篠の云うにはですね、彼女がその死体を見に行った時に、現場で支倉に出食わしたと云うのです」
「ふゝん」
「そして二人で、見た所は未だ若いようだが、可哀そうな事をしたものだと話合ったそうです」
「成程」
「支倉がその死体を見に行ったと云う事は、鳥渡我々の頭へピンと来る事実じゃありませんか」
「そうだね」
主任はうなずきながら、
「犯人はきっと犯行の現場を見に来ると云った我々の標語から云うと、支倉が池田ヶ原の古井戸まで死体を見に行ったと云う事は看過すべからざる事実だね」
「支倉が浅田の妻君に向って、『どこの女だか知らないが、可哀想なものだね』と云った事などは犯罪心理学の方から云って面白い事だね」
浅田の取調べの席を外して特に列席していた根岸刑事は口を挟んだ。
「僕もそう思うのだがね」
石子刑事は気乗のしないように答えた。