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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「賛成です」
根岸刑事は云った。
「署長始めそう云われるなら、私も安心です。やりましょう」
石子刑事は語尾に力を籠めて云った。
「では、その発掘場所其他の取極めについては石子君を煩わそう」
主任は云った。
「承知いたしました」
相談が一決すると、石子刑事は勇躍して大崎の共同墓地に向った。
所が問題はそう簡単ではなかった。
身許不明の屍体の仮埋葬は墓地の片隅の十坪あまりの地所内で行われるのだが、墓標などは元より何一つ印が立っていないのだった。
三年前の井戸から上った屍体が果してどの辺に埋めてあるのやら恰で見当がつかないのである。と云って片っ端から掘っては、どの屍体がどれやら証明する手段がない。要するに誰かその屍体はこゝに埋めたと云う事を知っているものゝ智恵を借りるよりない。
石子刑事はハタと困った。
彼は兎に角、この墓地で長く墓掘人夫をしているものを物色した。幸に二、三人の人夫を尋ね出す事が出来た。けれども三年前の屍体だと云うと、いずれも云い合わしたように、
「さあ」
と小首を傾けるのだった。
石子刑事は躍起となった。折角自分が云い出して、署長始め司法主任も進んで発掘に賛成したのに、いざと云う場合になって埋葬箇所が分らないではすまされない。