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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

浅田はあわてゝ、声をかけた。

「何の用だい」

渡辺刑事は嘲るように答えた。

「お篠を呼ぶ事は待って下さい」

「待てと云うなら、待ちもしようが」

渡辺はきっと浅田を見据えながら、

「どう云う訳で待って呉れと云うのだ」

「あいつはどうも智恵の足りない奴で、物事の見境なく喚き立てますから――」

「好いじゃないか」

渡辺は押被せるように云った。

「何を云ったって君に疚しい所がなければ差支えないじゃないか」

「所がその」

浅田は困惑しながら、

「あいつはある事無い事を喋るのです」

「無い事なら恐れるに及ばんじゃないか」

「そりゃそうですけれども――」

「渡辺君」

根岸はもどかしそうに声をかけた。

「いつまで愚図々々と一つ事を聞いていたって仕方がないじゃないか。早くお篠を呼び給え」

「承知だ」

渡辺は勢いよく答えた。

「直ぐ行くよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

浅田はうろたえ出した。

「あんな碌でなしを呼んだって仕方がありません」

「おい」

根岸は浅田をギロリと睨みつけて、

「貴様は何か女房に喋られて悪い事をしているな」

「そんな事はありません」

「支倉の逃亡を援助しているだけなら何もそう女房を恐れる筈はない。