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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

嘲笑

刑事は蒼くなって二階から駆け下りると表へ飛出した。只ならぬ彼の様子を見た渡辺刑事は驚いて声をかけた。

「君、どうしたっ!」

「に、逃がしたっ! 君はそっちへ廻って呉れ給え」

二人は右と左に分れて、支倉の家を包囲するように塀について廻った。それから出鱈目にそこいら中を探し廻ったが、遂に徒労だった。二人は茫然して顔を見合した。

「僕が悪かった」

さっきの得意はどこへやら、石子は悄然として云った。

「少しも油断はない積りだったが、やっぱりまだ駄目な所があるんだなあ」

石子は手短に逃がした次第を語った。

「ふん」

聞終った渡辺は感心した。

「中々凄い奴だな」

だが、いつまでも感心している訳にはいかない。

「渡辺君、僕はこのまゝ帰って、司法主任におめ/\と取逃がしましたとは報告出来ないよ」

石子は悄気切って云った。

「僕だってそうだよ」

渡辺は半ばは自分に云うように、半ばは石子を慰めるように云った。

「君と二人がゝりで逃がしましたとは云えないよ。第一僕の見はり方が悪かったんだから」

二人は相談をした。そうして大島司法主任には彼が不在だったと報告して、二人で共力して遅くとも三日の中に彼を引き捕えてやろうと誓った。