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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
彼は一体何の目的で警察を煙に巻きながら逃げ廻っているのだろうか。そうした大胆な行為が自分の過去を疑われる種になる事などは少しも考えていないのだろうか。
それからそれへと続出する疑問はどう解き様もなかった。只渡辺刑事の現実の問題としては三日三晩の間、支倉からは杳として何の便りも聞く事が出来ないと云う事だった。
渡辺刑事はもうがっかりして終った。
渡辺刑事が浅田の家に泊り込んでから四日目の朝、引続く空しい努力にヘト/\になっている時に、配達夫は一声郵便と叫んで、数通の手紙を投げ込んで行った。
配達夫の近づく足音にもう次の間まで出て待構えていた渡辺刑事は素早く飛出して拾い上げたが、そのうちに上封に見覚えのある太い字がいきなり眼についたので、ハッと思いながら裏を返すと、松下一郎と云う四字が電光のように彼の眼を打った。彼は思わずその手紙を握りしめて、神に感謝したのだった。
渡辺刑事に呼ばれて、眼前で開封すべく松下一郎の手紙を差出された浅田は、心持蒼い顔をして、手をブル/\顫わしながら封を切った。
手紙の文面は浅田に指輪と時計を持って来て貰いたいと云うのだった。