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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
十時は刻々に近づいて来る。
支倉の姿は未だ見えない。石子は次第に不安になって来た。
十時に垂んとしても支倉の姿が見えないので、石子刑事はいら/\して来た。
彼は又もや形勢を察して巧に逃げたのだろうか。それとも外の方法で境内へ潜り込んだか。境内に這入れば同僚の刑事達が犇々と網を張っているのだから、捕まるに違いないのだが、今だに境内から何の知らせも来ないのは、写真位で覚えている風体だから、変相でもしているので、発見出来ないのではなかろうか。石子はいろ/\に思い惑いながらも、後から後からと続いて来る電車に油断なく眼を配っていた。
鳥渡電車が杜切れた。
石子はホッと張りつめた息を抜いて、あたりを見廻した。彼の前にはいろ/\の風体の人が右往左往していた。重そうな荷を積んだ荷馬車の馬の手綱を引いて、輓子は呑気そうな鼻歌を歌いながら、彼の前を通り過ぎた。水溜りでもぬかるみでもお関いなしにガタビシと進んで行くので、泥が礫のように四方に飛んだ。粋な爪皮をつけた足駄を穿いた年増が危げにその間を縫いながら、着物に撥ねかけられた泥を恨めしそうに眺めていたりした。
そんな目まぐるしいような光景が石子の眼の前で展開していたが彼は遠くをばかり見つめていた眼の調節が急に取れないで、それがボンヤリと説明のない映写の幕を見ている様に眼に