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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
後からはジリ/\と石子刑事が追って行く。彼は正に網の中の魚である。流石の彼も浅田の手紙にこんな恐ろしい魂胆があるとは気がつかなかったと見えて、恰も何者かに操られるように、ヒョロ/\と境内に這入って行く、彼の運命も遂に尽きたのだろうか。
支倉の足が一歩境内に踏み込むと、石子はホッと安心の息をついた。未だ彼との間は十間ばかり離れているので、果して同僚の刑事が支倉の姿を認めたかどうか分らないけれども、間もなく刑事は石子の姿を認めるだろう。そうすれば直ぐに合図をするから、苦もなく捕って終う。兎に角もう十分に網の中に追い込んだのだから心配はない。
石子刑事がホッと気を緩めた瞬間に、支倉は不意に後を振り向いた。あっと思う暇もなく石子は彼に見つけられて終った。支倉は異様な叫声を上げると、直に足駄を脱ぎ飛ばした。
受縛
不意に振り向いた支倉は石子刑事の姿を見ると、忽ち跣足になって一散に鳥居内に駆け込んだ。安心し切っていた石子はこの思いがけない出来事にあわて気味に彼の跡を追った。
支倉と石子との距離は近づいた、と、支倉はヒラリと身を転じて一廻りすると、恰度石子と入れ交りになって、そのまゝ電車通りの方に駆け出した。