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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「どうしたのか」
大島主任は独房の中を覗きながら声をかけた。
「うーむ」
支倉は然し答えようともしないで唸り続けていた。
石子刑事は檻の中に這入って、支倉を抱き起したが、彼は蒼い顔をして苦悶をしているだけで、吐血した模様もない。
「どうしたんだ」
石子は呶鳴った。
「うーむ、苦しい、俺は死ぬんだ」
支倉は喘ぎながら答えた。
所へ急報によって警察医が駆けつけて来た。
小柄な老医は支倉の脈をじっと握っていたが、
「どうしたんだね、腹でも痛いのかね」
と優しく聞いた。
「えゝ」
支倉はグッタリしながら答えた。
「そうか、抛っときゃ治るよ。大した事じゃない。何か悪いものを食べたのか」
「えゝ、呑んだのです」
「呑んだ?」
医師は驚きながら、
「何を呑んだのだね」
「銅貨を呑んだのです。僕は、僕は死ぬ積りなのだ」
「何、銅貨を呑んだ」
石子は叫んだ。
「どこにそんなものを隠していたのだ」
支倉は苦しそうにグッタリしたまゝに答えない。石子は心配そうに医師に聞いた。
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫です」
医師はうなずいた。
「銅貨を呑んだって死にゃしません。脈も確ですし、心配はありません」