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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「貞の行方が分っていれば好いじゃありませんか。今まで何だって私に訊ねたのです」

「何っ、貴様は本官を愚弄するかっ」

大島主任は憤怒の極に達したが、もう次の言葉を発する事が出来ずフラ/\と倒れようとした。

「あっ、どうしました。お気を確に」

根岸は驚いて主任を抱き止めた。

「な、なに、大丈夫だ」

主任は血の気の失せた唇を噛みしめながら云った。

「まあ、お休みなさい」

根岸は主任を無理に押とめて、支倉に向って云った。

「ねえ、支倉君、世話を焼かすじゃないか。司法主任を怒らしても仕方がないじゃないか。知ってるだけの事は素直に話した方が好いと僕は思うね」

「知らないから仕方がない」

支倉は相変らずぶっきら棒ながら、いくらか優しく答えた。

嫌疑者訊問法について或る著述を読んで見ると、第一に嫌疑者を脅かさない事、嫌疑者に対して立腹しない事、嫌疑の内容を知らしめない事などが挙げてある。今支倉喜平を訊問している警吏は主任始めいずれも経験に富んだ其道の豪の者揃いであるから、これしきの事を知らない筈がない。無論彼等は始めは定石通り訊問をしたのだが、元来支倉が一筋縄で行く人間ではないのだから、生優しい手段は尽く効を奏せず、いら/\して来た彼等は今は殆ど頭ごなしに押えつけて白状させようとしている。