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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「とう/\やって来たな、だがあいつは支倉じゃないね?」

「違う」

石子は微笑ながら答えた。

「然し、関係のある奴に相違ない」

「兎に角出て来る所を押えよう。此間のような目に遭うといけないから、僕は庭の方を警戒しているよ」

「そうだ。今度逃がすと大変だ」

石子は苦笑いしながら、

「じゃ庭の方を頼むぜ」

二人は裏と表とに別れて、怪漢の出て来るのをじっと待っていた。

当もなく待っているのも随分辛くもあり、長くもあったが、当があって今か今かと待ち設けるのはそれ以上に長く辛かった。一分が十分にも三十分にも思えるのだった。四晩の辛労に肝腎の巨魁を捕える事は出来なかったが、確にその片割れと思える男を取押える事が出来るのであるから、両刑事の胸は躍っていた。それだけ一刻も早く彼の出て来るのが待たれるのだった。

実際では三十分余り、石子刑事には三時間も待ったかと思われる頃、植込を通して玄関にほんのりと燈火がさして、人の出て来る気配がした。渡辺刑事も早く察したと見えて、門の方へ引返して来た。

門から出て来たのは確に先刻の男だった。風呂敷包はそのまゝ持って来たらしく、それに先刻のように抱えていない、ブラリと提げているので、半分以上二重廻しの下からはみ出していた。