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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

彼が病を押して身を挺して支倉の訊問に当っていた事は前に述べたが、昨日は殊に気分の勝れなかったのを無理に出署したのだが、出署して見れば支倉を取調べずには居られない。で、刑事達の留めるのも聞かず訊問を始めたが、忽ち興奮して終って持病の心臓をひどく痛めて終った。帰宅するとそのまゝバッタリ斃れて終ったのであった。

「大島主任はどうもいけないらしいです」

真蒼な顔をして署長室に這入って来た石子は、署長の顔を見つめながら云った。

「えっ」

物に動じない署長も流石に驚駭の色を現わして突立上った。

大島主任が昏々として無意識状態となり、食塩注射によって、辛じて生死の間を彷徨しているその日の午後、石子、渡辺両刑事は又もや支倉を留置場から引出した。主任の弔合戦である。二人は初めから殺気立っている。

「おい、支倉、どうしても云わないか」

渡辺刑事は息巻いた。

「こうなったら根比べだ。貴様が先に参るか、俺が斃れるか。何日でも訊問を続けるばかりだ」

「支倉、幾度も云って聞かせる通り」

石子刑事も噛みつかん許りに呶鳴った。

「貴様のした事は明々白々なのだ。知らぬ存ぜぬで云い張ろうとしても無駄な事だぞ」