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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
石子刑事は高圧的にすべての写真を取り出す事を命じた。細君は唯々として分厚い写真帳や古ぼけた写真を彼の目の前に運んだ。
写真帳を繰っているうちに、石子刑事は思わずあっと叫んだ。
それは半ば口惜しい叫声で、半ば感嘆の叫声だった。写真帳のどの部分からも支倉自身の写真と思われるものは尽く引裂かれているのだった。
何と云う抜け目のない悪人だろうか。
写真帳からは彼の一人写しは無論、二、三人で写しているのや、大勢と一緒に写している写真の彼の姿と思われる部分はすっかり引裂いてあった。無論手箱の中に収められたキャビネや手札形の写真の中には彼の姿の片鱗さえなかった。いつの間に之だけの周到な用意をしたのだろうか。
石子刑事は何気なく聞いた。
「奥さん、此間のあなたの焼増はどれですか」
「それはあの」
彼女はドギマギしながら、
「お友達の所へ送って終いました」
石子刑事は細君の顔色をじっと観察した。それから半ば引裂かれた写真の台紙に残っている写真館の名を手帳に控えて外に出た。
それから彼は手帳に記された二、三の写真館を訪ねた。驚いた事にはどの写真館でも石子刑事の求める種板はすべて最近に買収せられていた。