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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
現在乗った覚えのある電車を、当時開通していなかったと云って見た所で、直ぐ分る事だから、支倉が電車がなかった筈だと云い立てた事は、全く記憶を喪失していたと見るのが妥当で、同時に殺人罪を犯した日の出来事を記憶していない筈はないと云うのも当を得た議論だ。とするとこの矛盾をどう解決するかと云うと、殺人罪は犯したかも知れんが、清正公前から電車に乗ったのは嘘ではないかと思える。
一体犯人は大体罪を隠そうと思っているのだから、突っ込まれると苦しまぎれにいろ/\の答弁をする。もと/\嘘で固めたのだから、前後撞着矛盾を生じるから、益※(二の字点、1-2-22)突っ込まれる。終に恐れ入るのだが、この際根本の犯罪は自白しても、そこまでに行く道程のうちの或る部分には嘘がそのまゝ残っている事が充分あり得る。
支倉の場合はこれでつまり貞を殺した日にどう云う風に彼女を引廻したかと云う事を追求されて、苦しまぎれに述べ立てた事が、いよ/\殺人を自白した後に、そのまゝ訂正せられずに残ったのではなかろうか。
もし支倉が真の殺人罪を犯していないのなら、こんな曖昧な事でなくもっと有力な反証が挙げられそうなもので、電車があったとかなかったとか云う事で小股を掬う必要もなく、又電車があったからと云って、忽ち致命傷がペシャンコになる筈もない。