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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

それから二、三日経った或る夜、庄司氏の応接室で卓子を取り巻いて主客三人の男が坐っていた。髪の毛の薄い肥った男は探偵小説家だった。色白の下顋の張った小柄な男は警視庁の石子巡査部長だった。

「石子君は当時刑事でね、支倉事件に最初に手をつけた人なんだ」

庄司氏の顔は今宵支倉事件を心行くまゝに語る機会を得た事を喜ぶように輝いていた。

「初めは極く詰らない事からでしてね」

石子は語り出した。

「これが小説だと、凄い殺人の場面か、茫然とするような神秘的な場面か、それとも華やかな舞踏会の場面からでも始まるのですが、事実談はそうは行きませんよ」

逃亡

大正六年一月末、午後二時の太陽は静に大東京の隅々までを照していた。松飾などは夙に取退けられて、人々は沈滞した二月を遊び疲れた後の重い心で懶げに迎えようとしていたが、それでも未だ都大路には正月気分の抜け切らない人達が、折柄の小春日和に誘われて、チラホラ浮れ歩いていた。それらの人を見下しながら、石子刑事は渡辺刑事と並んで目黒行の電車に腰を掛けていた。電車はけたゝましい音を立てながら疾駆していた。

「ねえ、渡辺君」