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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

二十五日夕景示談事済みになったものを、何とて連れ出すものですか。

警 石をつけて入れたのか。薬をのませてコモに包んで入れたのか。

答 知りません。

警 知らん筈はない。木の株を入れたろう。

答 知りません。

警 そんな事はない、木の株を二つ入れてあるではないか。

私は入れたのでありませんから知ろう筈はありません。木の株とやら少しも知らんのであります。

答 入れたのでないけれど、入れたとしましょう。

警 よし、木の株を何の為に入れたか。死体の浮き上がらぬよう入れたのか。

答 どうも困りますね。仕方ありません。そうしましょう。

警察での問答は原稿用紙にして凡そ十一枚、面白く可笑しく書いてある。返答に困った所々は当惑々々と云う文字を挟み、或いは頭蓋骨との接吻、単に接吻々々などと読む人をして思わず失笑せしめる位に軽妙に書いてある。

余裕綽々と云おうか、捨鉢と云おうか、云い逃れるに道なき殺人の罪に問われている人とは思われない。

支倉は大正六年六月十九日附で全精力を傾倒して、半紙に細々と認めた長々しい上願書を古我予審判事に提出して、神楽坂署の拷問を訴え、繰返し貞子を殺した覚えの更にない事を哀訴したのは前掲の通りである。