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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
蒸し暑い宵だった。
彼女が心の休む暇もなく、涙に暮れているうちに、世はいつの間にかもう夏めいていたのだった。一枚だけ明け放した雨戸の隙から型ばかりに吊ってある檐の古簾の目を通して、梅雨明けのカラリと晴れ上った空に一つ二つ星がキラめいているのが見えていた。
今年の二月計らずも刑事に踏込まれてから、凡そ半年足らずの間に何と不幸の数々が続いた事であろうか。彼女はその僅ばかりの間に十年も年を取って終ったような気がするのです。
喜平との七年の結婚生活は夢のようだった。十九の年に双親の勧めるまゝに、処女の純潔を彼に捧げてから今まで、必ずしも幸福に充ちてはいなかったけれども、彼女は夫に愛を持ちながら信仰の生活を続ける事が出来た。それに夫が彼女に対する愛情は、時に執拗、時に空虚に感じる事はあったけれども、並々ならぬものであった。総括的に云うと、彼女は結婚後間もなく儲けた一子を中にして、夫と共に可成幸福な道を歩む事が出来たのだった。
それが長い七年の後、思いがけなくも一朝にして潰えて終ったのだった。
夫が彼女と結婚する以前に既に前科を四犯も重ねていようとは夢にも思っていない事だった。