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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
別に家を差押えられて、神楽坂署で騙された事が始めて分り、その為虚偽の自白である事を暴露したとは云っていない所を見ると、さして大問題でなかったのかも知れぬ。
然し、当面の問題として最も苦しんだのは静子だった。頼みに思う夫は未決監に繋がれ、身には一銭の貯えもなく、唯一の財産である家屋は尽く差押えられて了った。前にも云った通り当座は身についたものを一つ売り二つ売りして凌いだが、今はその売代さえ尽きた。夫の公判の期日は迫っている。愈※(二の字点、1-2-22)公判となれば正式に弁護士を依頼しなければならない。然し今は弁護士を依頼するどころか、明日の糧さえないのだ。その上近くこの家も立退かなければならない。そうすると差当り雨露を凌ぐ道にさえ差支るのだ。
それからそれへと静子の物思いは尽きない。無心でスヤ/\と寝入っている子供の寝顔を見るにつけ、涸き切ってもう流れ出る源もあるまいと思われた涙が、又新たに浸み出して来る。血の涙と云うのはこの事であろう。
あゝ、明日をどうしよう。子供をどうして育てよう。それよりも近々公判に廻る夫の身をどうして救けよう。夫は呉々も無実の罪と云っている。