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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
静子は一生懸命に夫に縋りつきながら、
「まあ待って下さい。もう一度考え直して下さい。坊やをどうするのです。それ、そこにスヤスヤ寝ている坊やをどうするのです」
「なに、坊や、うん、俺も昔は恩愛の絆に縛られて、女々しい気にもなった。もう今の支倉にはそんなものは用はない。そうだ、今日生きながら悪魔になろうと誓った首途の犠牲に、そいつを踏み潰してやろう」
怒髪天を衝き眼は爛々として輝き、かっと大口を開いた支倉は忽ち足を飛ばして寝ている子供を蹴飛ばそうとした。静子は驚いてその足に縋りついて、大声に叫んだ。
「あれ! 誰か来て下さいっ!」
然しどうしたのか声が思うように出なかった。一生懸命に夫を押えている手も女の悲しさ、次第に力が弱って、今にも子供諸共踏み躙られそうになった。彼女は身を悶えながら只微に、
「あれ――」
と呻くばかりだった。
「もし/\、奥さん。どうしたんです」
耳許に聞き覚えのある太い声が聞えたので、ハッと眼を開くと、のっそり浅田が立っていた。静子は今まで転た寝の夢を見ていたのだった。
吃驚した彼女は飛起きると、浅間しい寝乱れ姿を繕った。
「どうなすったんです。