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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「弁護士は能勢さんが好いでしょう」
浅田は一向静子の様子を気にせずに喋りつゞけた。
「あの方なら私も少しは知っていますし、こんな事には持って来いの人です。費用の事などは喧しく云わないで、いつでも弱い者の肩を持って呉れる人ですよ」
「支倉も能勢さんにお願いしたいような事を云って居りました」
静子は漸く頭を上げた。
「そうですか。じゃ支倉さんもきっと評判を聞いたのでしょう。では兎に角一人は能勢さんにお願いする事としましょう」
能勢弁護士と云うのは人も知る官権の横暴と云う事に強い反感を持った人で、卑しくも官権が圧迫を加えたと云うような事実に対しては彼一流の粘り強さで徹底的に糾弾する。若い裁判官は彼の皮肉な弁護振りに思わず苦い顔をする位で、戦闘意識の強い被虐階級には、有力な味方なのだ。その代りに時に反対せんが為に反対し、一部からは売名の徒と悪く云われる。事実弱者の味方をして有名になったのだから、売名と云われても仕方がないが、今の世の中に名を売る手段として弱者の味方をすると云う事は愚の極だ。むしろブルジョア階級の御出入を勤めて、名利合せて得る方が利口だ。そう云う利口な事の出来ないのは矢張り気質から来るので、能勢弁護士もどこか変った所がある拗者ではないかと思われる。