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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「支倉についてかね」
「そうです」
「どう云う話なんだね」
石子は思わず首を前へ突き出した。
「御承知の通り私は四年生まで城北中学にいましたが、小林と云う理科の先生がありましてね、基督教信者でしたが、娘さんの確貞子と云いましたが、それを行儀見習いに支倉の所へ女中に出したのです。三年前の事ですが、娘さんは十六位でした。私も未だ不良だった時代ですから、トテシャンだとか、いや何だとか云って騒いでは、不良仲間と一緒に手紙を送ったりして、先生を心配さしたものです。内気な可愛い娘さんでしたよ」
岸本は鳥渡顔を赤らめたが、すぐ真顔になって、
「その娘さんが間もなく家出して、未だに行方不明なのです」
「え、その家出と云うのも支倉の家をかい」
「いゝえ、そうではないらしいのです」
岸本も委しい事は知らなかったが、何でもその貞子と云う娘が、支倉に奉公中病気になって、その為に暇を貰って、知合の宅から毎日病院に通っていたが、ある朝いつものように病院に行くと云って家を出たまゝ帰らなかった。
それからもう三年経つが、未だに行方不明というのだった。
「もしかすると支倉がどうかしたんじゃないでしょうか」