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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
もとよりこの足掛け八年、満七年余の牢獄生活は云わば彼が故意に延ばしたのであって、既に第一審に於て死刑に決定したのであるから、順当に行けば彼の生命は数年前に断たれた事であろう。だから彼は好んでその苦痛を延ばしたのであると云う議論もあるかも知れぬ。然しその長い間彼が一途に死刑より逃れよう、後には一度出獄がしたいと云う果敢ない望みから闇黒な牢獄の中に座して、あらゆる痛苦を征服し、世を呪い人を呪って生きつゞけた、忍苦と生存慾とを思うと、その執念の恐ろしさに戦慄を禁じ得ないと共に、一個の人間としての彼の悩みに転た同情を濺がざるを得ない。
さて、裁判長の訊問は次で聖書の窃盗から放火の事実に進み、一転して貞子の事件に這入った。
支倉は裁判長の訊問に連れて、例の如く、貞子には決して暴行を加えたのではなく、合意の上であって、彼女が病院に通う途中に待受け連れ出したる事実はないと断言した。裁判長は更に追究すると、支倉は、
「高輪警察署で書類を隠されて居ますし、神戸に書き送った手紙も出して呉れませんから、分りません」
と嘯きながら答えた。
「では」
裁判長はキッとなって云った。