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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

岸本は不安そうに云った。

可憐な娘が行方不明になったのは支倉が誘拐でもしたのではないかと云う岸本の言葉に、石子刑事は、

「さあ」

と云って腕を組んだ。

支倉の家に女中をしているうちに行方不明にでもなったのなら格別、病気の為に暇を取って帰ってからの事だとすると、濫りに支倉を疑う訳には行かない。然し今までの支倉の不敵な行動と、いろ/\疑わしい前身を考え合せて見ると、女中の家出と云う一見ありふれた事件ながら、直に無関係と極めて終う訳にも行かない。女中の病気は何か、どうして病気になったか。家出当時の状況など一応取調べて見ねばなるまい。

石子刑事は腕組を解いて顔を上げた。

「その小林と云う先生は今でも学校にいるのかい」

「えゝ、相変らず動植物を受持って、生徒に馬鹿にされているのですよ」

「どこだね、住居は」

「江戸川橋の近所です。確か水道端町だと思いました」

「その娘さんは何病だったか知らないかい」

「それでね、妙な噂があるのですよ」

岸本は声をひそめながら、

「花柳病らしいと云うのです」

「ふーン、十六の娘がね」

石子は首を傾けた。

「不良中学生なんて云うものはどこから聞出して来るか、いろんな事を知ってるものですよ。