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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

やがて封筒を再びクル/\と丸めると、屑籠の中へ押込んで、何喰わぬ顔で又掃除を始めた。

暗室の中では浅田はバットを揺り動かしながら考えていた。

「ふゝん、やっぱりきゃつは廻し者だ。油断のならない事だ。だがきゃつ、素人で幸いだて」

やがて現像を終えて、定着バットの中へ乾板を入れると、浅田はのそ/\暗室から出た。

岸本は掃除をすませて、窓際の椅子にかけてポカンとしていた。

「掃除が出来たら下へ行って好いよ」

浅田は云った。

「はい」

岸本の姿が見えなくなると、浅田は机の前にどっかと腰を下して呟いた。

「きゃつから刑事の耳に這入るのが、明日中として、刑事の無駄足を踏むのが明後日か、ふん、二、三日は余裕がある訳だな」

放火事件

「な、何でえ。何んだって人に突当りゃがった」

この寒空に薄汚い半纏一枚の赤ら顔のでっぷりした労働者風の男が、継の当った股引を穿いた足許もよろ/\と、先ず百円見当の月給取らしい小柄な洋服男の上衣を掴んで呶鳴った。

「冗談云うな、お前の方から突当ったんじゃないか」

洋服男は虚勢を張って呶鳴り返した。然し眼は迷惑そうにキョト/\していた。