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しなまいのふくろ
支那米の袋
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,357 字 · 50 页
あんたを殺してお金を奪ったって、いくらも持ってやしないじゃないの。亜米利加の水兵の十分の一も持っていないこと妾チャンと知っているわよ。ホラ御覧なさい。ホホホホホ。だからそんな余計な心配をしないで一パイお飲みなさいったら……飲まなけああんたを殺したいわけを話さないからいい……寝てる間に黙って殺しちゃうから……さあ……グッと……そうよ。サアも一つ……これは妾を侮辱した罰よ。ホホホホホホホ。
今夜もそうなのよ。チョット電燈を消すから、その窓から向家の屋根を覗いて御覧なさい……ホラ、あんなに雪が斑になって凍り付いているでしょ。妾はあの屋根の雪の斑を見るたんびにあんたを殺したくてたまらなくなるのよ。……だからそのたんびにお酒を飲むの。ウオツカでも、ウイノーでも、ピーヴォでも何でもいいの。そうすると忘れちゃってね。あんたを殺すのを忘れちゃって寝てしまうから……ああ美味しい。妾もう一杯飲むわ。
……イイエ真剣なの。ホントウに真剣なのよ。そうして今夜こそイヨイヨ本気になってあんたを殺そうと思っているのよ。だから今夜は特別なのよ……だってあんたはちょうどこんな晩に、妾を生命がけの旅行に連れ出して行った男にソックリなんですもの……背の高さと色が違うだけで、真正面から見ているとホントに兄弟かと思う位よ。