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しなまいのふくろ

支那米の袋

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,357 字 · 50 页

青空文庫

……その時の怖かったこと……今までの怖さの何層倍だったか知れないわ……妾の寿命はキットあの時に十年位縮まったに違いないわよ。……もう思い切り小さくなって、いつまでもいつまでも息を殺していると、そこいら中があんまり静かなのと、気味がわるいのとで頭がキンキン痛み出して、胸がムカムカして吐きそうになって来たの。それを我慢しよう我慢しようと藻掻いていたために身体じゅうが又、冷汗でビッショリになってしまったの。

そうすると、もうどこかへ行ったのか知らんと思っていたその男が馬鹿みたいにノロノロした、変テコな胴間声で口を利き出したの。

「……どうしても一ツ足りねえと思うんだがナア……みんなは、おらが三人担いだというけんど、おらあ二遍しけあ階子段を昇らねえんだがなあ……」

その声と言葉付きを聞いた時に、妾は又、髪の毛が一本一本馳け出したように思ったわ。歯の根がガクガク鳴り出して、手足がブルブル動き出すのをどうする事も出来なかったわ……だってその声っていうのは、ずっと前に一度オブラーコの酒場へ遊びに来て、散々パラ水兵たちにオモチャにされて外に突き出された、大きな嫌らしい黒ん坊の声だったんですもの。