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しなまいのふくろ
支那米の袋
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,357 字 · 50 页
「サア……天国へ来た……」
「ウフフフフ。ワーニャさんハイチャイだ。ちっとハア寒かんべえけれど」
「ソレ。ワン……ツー……スリイッ……」
と云ううちに、妾をゆすぶっていた六ツの手が一時に離れると、妾はフワリと宙に浮いたようになったの。
その時に妾は何かしら大きな声を出したようよ。……やっと夢から醒めたようにドキンとしてね……だけど、そう思う間もなく、妾の頭が、船の外側のどこかへ打つかると一処にガーンとなってしまって、いつ海の中へ落ち込んだかわからなかったの……。
それから又、妾が気が付いて眼を開いたのは、一分か二分ぐらい後のようにしか思えないのよ……何だか知らないけれど身体中に痺れが切れて、腰から下が痒くて痒くてしようがないように思っているうちに、フイッと眼を開いてみたら、そこは忘れもしないこのレストランの地下室でね。いつぞや肺病で死んだニーナさんが寝かされていたその寝台の上に、湯タンポと襤褸っ布片で包まれながら、素っ裸体で放り出されているじゃないの。おまけに寝台の横でトロトロ燃えているペーチカの明りでよく見ると、妾の手や足は凍傷で赤ぶくれになっていて、針金の痕が蛇みたいにビクビクと這いまわっている上から、黒茶色の油膏薬がベトベトダラダラ塗りまわしてあるじゃないの。