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ほうろうのやど

放浪の宿

里村 欣三

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,066 字 · 28 页

青空文庫

「よう! 素敵じゃあねえか」

この二人はいつでも肌身はなさず短刀を身につけていると見えて、黒眼鏡は食いかけの黒パンの破片を抛り捨てると、早速に支那服と向い合って短刀の刃でロースビーフの角を切り落して、頬ばり始めた。口中を油だらけにして、旨そうに眼玉を白黒させた。

「黒パンに、生胡瓜か。見っともない真似はよせよ! まさかにどぶ鼠じゃあんめえし……」

支那服が、皮肉に黒眼鏡を笑殺した。

「糞! 抜かすな」

黒眼鏡はそんな皮肉に応酬するよりも、咽喉一杯に、雑巾のように押し込んだビーフに手古擦っていたのだ。

ふと、支那服が左官を見つけて、思い出したように言った。

「おい! 手前は昨日、ほら門前のロシヤ人の酒場で酔いつぶれたろう。大連はお前、たった今、領事警察に引っこ抜かれたぞ! ここらの『白』は皆んなスパイだ。滅多なことは喋舌れねえんだ。それに気を配ばらずに、小僧っ児みたいな、気焔をあげるのが、ドジさ。大人気ない話よ。網んなかで跳ね廻わるようなもんじゃねえか。馬鹿な」

だが、左官は皆目、その支那服の言った意味が解らなかった。

「ほう。社会主義者だったのか。彼奴が」