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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,614 字 · 47 页

青空文庫

千日前は朝で、活動小屋の石だたみが未だ濡れていた。きょろ/\しながら活動写真の絵看板を見上げて歩いた。首筋が痛くなった。道頓堀の方へ渡るゴーストップで駐在さんにきびしい注意をうけた。道頓堀から戎橋を渡り心斎橋筋を歩いた。一軒々々飾窓を覗きまわったので疲れ、ひきかえして戎橋の上で佇んでいると、橋の下を水上警察のモータボートが走って行った。後から下肥を積んだ船が通った。ふと六貫村のことが聯想され、金造の声がきこえた。わりゃ、伊勢乞食やぞ、杭(食い)にかゝったらなんぼでも離れくさらん。にわかに空腹を感じて、出雲屋へ行こうと歩き出したが方角が分らなかった。人に訊くにも誰に訊いて良いか見当つかず、何となく心細い気持になった。中座の前で浮かぬ顔をして絵看板を見上げていると、活動の半額券を買わんかと男が寄って来た。半額券を買うとは何の事か訳が知れなかったから、答えるすべもなかったが、之倖いと、ちょっくら物を訊ねますが、出雲屋は。この向いやと男は怒った様な調子でいった。振り向くと、なるほど看板が掛っている。が、そこは順平に連れてもらった店と違うようだ。出雲屋が何軒もあるとは思えなかったから、狐につまゝれたと思った。