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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,614 字 · 47 页

青空文庫

護送の途中、汽車で大阪駅を通った。編笠の中から車窓の外を覗くと、いつの間に建ったのか、駅前に大きな劇場が二つも並んでいた。護送の巡査が駅で餡パンを買ってくれた。何ヶ月振りの餡気のものかとちぎる手が震えた。

懲罰のためというだけあって、仙台刑務所での作業は辛かった。土を運んだり木を組んだり、仕事の目的は分らなかったが、毎日同じような労働が続いた。顔色も変った。馴れぬことだから、始終泡をくっていた。朝仕事に出る時は浜子のことが頭に泛んだ。夕方仕事を終えて帰る時は美津子、食事の時は小鈴の笑い顔を想った。夜寝ると彼女達の夢をみた。セーラー服の美津子を背中に負うているかと思うと、いつの間にかそれは浜子に変って居り、看護婦服の浜子を感じたかと思うと、今度は小鈴の肩の柔さだった。

一年経ち、紀元節の大赦で二日早く刑を終えると読み上げられた時、泣いて喜んだ。刑務所を出る時、大阪で働くというと、大阪までの汽車賃と弁当代、ほかに労働の報酬だと二十一円戴いた。仙台の町で十四円出して、人絹の大島の古着帯、シャツ、足袋、下駄など身のまわりのものを買った。知らぬ間に物価の上がっているのに驚いた。