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ほうろう
放浪
織田 作之助
「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,614 字 · 47 页
眼先が真っ暗になったような気持の中で、たゞ一筋、交番へ届けるという希望があった。歩き出して、紙袋をすべり落した右の手をながめた。醜い体の中でその手だけが血色もよく肉も盛り上って、板場の修業に冴えた美しさだった。そうや、この手がある内は、わいは食べて行けるんやったと気がついて、蒼い顔がかすかに紅みを帯びた。交番へ行く道に迷うて、立止った途端、ふと方角を失い、頭の中がじーんと熱っぽく鳴った。
順平は、かつて父親の康太郎がしていたように、首をかしげて、いつまでも突っ立っていた。