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ほうろう
放浪
織田 作之助
「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页
大きな池なので吃驚した。順平は国定教科書の「作太郎は父に連れられて峠を……」という文句を何となく想出したが、後の文句がどうしても頭に泛んで来なかった。見送るといって随いて来た文吉は、順平よ、わりゃ叔母さんの荷物もたんかいやとたしなめた。順平は信玄袋を担いでいたが、左の肩が空いていたのだ。文吉の両肩には荷物があった。叔母はしかし、蜜柑の小さな籠をもっているだけで、それは金造が土産にくれたもの、何倍にもなってかえる見込がついていた。
岸和田の駅から引返す文吉が、直きに日が暮れて一人歩きは怖いこっちゃろと、叔母は同情して五十銭呉れると、文吉は、金はいらぬ、金造叔父がわしの貯金帳こしらえてくれると云って受取らず、帰って行った。そんなことがあるものか、文吉は金造に欺されている、今に思い知る時があるやろと、電車が動き出して叔母は順平に云った。はじめて乗る電車にまごついて、きょろきょろしている順平は、碌々耳にはいらなかった。電車が難波に着くと、心に一寸した張りがついた。大阪へ行ったらしっかりせんと田舎者やと笑われるぞと、兄らしくいましめてくれた文吉の言葉を想出したのだ。