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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

さっぱりした着物を着せられたが、養子とは兄の文吉のようなものだと思っていた身に、何かしっくりしない気持がした。買喰いの銭を与えられると、不思議に思った。田舎の家は雑貨屋で、棒ねじ、犬の糞、どんぐりなどの駄菓子を商っているのに、手も出せなかったのだ。一と六の日は駒ヶ池の夜店があり、丸亀の前にも艶歌師が立ったり、アイスクリン屋が店を張ったりした。二銭五厘ずつ貰って美津子と夜店に行く時は、帯の中に銅貨をまきこんで、都会の子供らしい見栄を張った。しかし、筍をさかさにした形のアイスクリンの器をせんべいとは知らず、中身を嘗めているうちに器が破けてはっとし、弁償しなければならぬと蒼くなって嗤われるなど、いくら眼をキョロキョロさせていても、やはり以後かたくいましめるべき事が随分多かった。

ある日銭湯へ行くといって家を出た。道分ってんのかとの叔母の声をきき流して、分ってまんがな。流暢に出た大阪弁に弾みつけられてどんどん駆け出し、勢よく飛び込んでみると、おやッ! 明るいところから急に変った暗さの中にも、大分容子が違うとやがて気が付いて、わいは……、わいは……、あとの声が出ず、いきなり引きかえしたが、そこは銭湯の隣の果物屋の奥座敷で、中風で寝ているお爺がきょとんとした顔であとを見送っていた。