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けいごろん

敬語論

坂口 安吾

「文藝春秋 第二六巻第七号」1948(昭和23)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,289 字 · 11 页

青空文庫

誰が言葉を変えよと命令したわけでもない。一朝生活が変るや、瞬時にして言葉は変っているのである。

奇怪な敬語や何やら横行し、日本の言葉が民主的でないと云うなら、日本人の生活がまだ民主的でないというシルシにすぎないものだ。

敬語廃止運動が起るとすれば、新生活とか生活改善運動の一部として行われる以外に意味はない。全日本人の言葉を法則を定めて統一しようとするのはムリであるが、あるキッカケを与えて自然の変化をうながし待つことは不自然ではない。

先ず、新聞をひらいてみたまえ。ある人を氏とよび、さんとよび、君とよび、犯罪者はよびすてゞはないか。

個人が勝手に用いているザアマスだの敬語などは、銘々勝手で、罪のないものであるが、こうして一つの新聞的表現を法則化して押しつけてくる新聞語などは、もっと厳しく批判する必要がある。

オエラ方も犯罪者も戦犯も、みんな一様に氏とよんだら、どうだ。

新聞の任務が純粋に報道にとゞまるだけならともかく、多少とも啓蒙的役割を帯び、又、それを自覚しているとすれば、自分の在り方に、もっと自覚的でなければならぬ。そして新聞用語というものに対しても、組織的な研究機関があって、その選定に深い考慮を払い、又、世間の批判に耳を傾けて善処すべきであろうと思う。