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すうがくとごがく

数学と語学

寺田 寅彦

「東京帝国大学新聞」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,575 字 · 7 页

青空文庫

長い修練によってそれをすっかり体得した上で、始めて自分自身の考えを運ぶ道具にする事ができる。

数学でも、ただ教科書や講義のノートにある事がらを全部理解しただけではなかなか自分の用には立たない。やはりいろいろな符号の意味をすっかり徹底的にのみ込む事はもちろん、またいろいろな公式をかなりの程度まで暗記して、一度わがものにしてしまわなければ実際の計算は困難である。

それで語学も数学もその修得は一気呵成にはできない。平たくいえば、飽きずに急がずに長く時間をかける事が、少なくとも「必要条件」の一つである。

ただしこれだけでは「充分なる条件」ではない。いくら単語をたくさん覚え、文法をそらんじてもよい文章は書けないと同様に、いくら数学に習熟してもそれで立派なオリジナルな論文が書けるとは限らない。これはいうまでもない事である。

数学が一種の国語であるとしても、それはきわめて特別な国語であることには間違いない。少なくとも高等数学となると一般世人にはあまり用のないこと、あたかもサンスクリットやヘブライのようなものである。用がないから習わない、習わないからたいそうむつかしく恐ろしく近づき難いもののように思われ、従ってそれに熟達した人がたいそうえらいものに見え、それでつづられた文章がたいそうありがたいもののように見えてくる。