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ぶんだんむかしばなし

文壇昔ばなし

谷崎 潤一郎

「コウロン」1959(昭和34)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,802 字 · 20 页

青空文庫

あるいはただの関係ではなかったかも知れない。雑誌『中外』の社長内藤民治氏が出資して草人夫婦を渡米させた時、出帆間際まで内藤氏の金が届かないので草人が大騒ぎをしたいきさつは、「上山草人のこと」に書いてあるから省略するが、その時浦路に泣き着かれて樗陰が五百金を投げ出したのは、珊瑚のことが意中にあったからかも知れない。というのは、手の早い草人は珊瑚にもチョッカイを出していたので、夫婦をアメリカへ立たせてしまえば、珊瑚を自由になし得るという腹であったかとも思える。

○

昔の雑誌編輯者というものは一見識を具えていて、なかなか圭角があった証拠として、樗陰の例を二つ三つ引いて置こう。私が知っているのでは、樗陰が最も嫌っていたのは鈴木三重吉であった。三重吉の悪口を私はたびたび樗陰から聞かされた。三重吉も彼のことをかなり悪しざまに語っていた。しかしこの二人が不和になった原因は何であったか忘れたが、三重吉の次に樗陰と激しい衝突をしたのは小山内薫で、この場合は小山内の作品が樗陰の意に満たず、その理由を詳細に書き送って、原稿を突ッ返したのが事の起りであった。