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ぶんだんむかしばなし
文壇昔ばなし
谷崎 潤一郎
「コウロン」1959(昭和34)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,802 字 · 20 页
文壇で「紅露」が併称された如く、梨園では「団菊」といわれていたが、この方は舞台の人であるから、幸いにして私はこの二巨人の顔や声音を覚えている。が、文壇の方では、僅かな年代の相違のために、会い損っている人が随分多い。硯友社花やかなりし頃の作家では、巌谷小波山人にたった一回、大正時代に有楽座で自由劇場の第何回目かの試演の時に、小山内薫に紹介してもらって、廊下で立ち話をしたことがあった。山人は初対面の挨拶の後で、「君はもっと背の高い人かと思った」といったが、並んでみると私よりは山人の方がずっと高かった。『少年世界』の愛読者であった私は、小波山人と共に江見水蔭が好きであったが、この人には遂に会う機会を逸した。小波山人が死ぬ時、「江見、己は先に行くよ」といったという話を聞いているから、当時水蔭はまだ生きていたはずなので、会って置けばよかったといまだにそう思う。小栗風葉にもたった一遍、中央公論社がまだ本郷西片町の麻田氏の家の二階にあった時分、滝田樗陰に引き合わされてほんの二、三十分談話を交した。露伴、藤村、鏡花、秋声等、昭和時代まで生存していた諸作家は別として、僅かに一、二回の面識があった人々は、この外に鴎外、敏、魯庵、天外、泡鳴、青果、武郎くらいなものである。