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ぶんがくとせいかつ

文学と生活

宮本 百合子

「入門文学講座 第三巻」新日本文学会、1950(昭和25)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 17,476 字 · 34 页

青空文庫

これは、おそらく小説を書こうという気持をもっているすべての人が、しっかりした作品を読んでゆく間に経験している心持であろうと思う。いい作品はその作品の世界がわたしたちの生活をひろくゆたかにするばかりではなく、わたしたち自身の生活を見直させ、自分として是非これはかいて見たいと思うテーマを発見させさえもする。

小説のおもしろさ、がここにあり、文学が、人生の教師であると云われることの意味も、ここにある。よい小説にひきこまれるおもしろさは、ただつぎにくりひろげられる情景の変化につれられてゆく気持ばかりではない。事件の発展につれて登場しているいくたりかの男女は、それぞれに人間としての心のかぎりをつくして行動し、事件そのものに捲き込まれていながらも、同時に事件そのものを判断する関係におかれている。その過程が読むものの心にまた独特の反響をよびさましてゆく、そのおもしろさである。言葉をかえていえば、わたしたちはその作品の世界にひきこまれることで、自分だけの日常には経験されていない人生の複雑な諸関係の間を通過しながら、自分だけの生活では自覚されていなかった社会関係、そこから生じる人間感情の葛藤と進展と批判をみいだすのである。