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ぶんがくのひろがり
文学のひろがり
宮本 百合子
そこにある科学と文学とのいきさつ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,445 字 · 9 页
岩波新書のなかに、米川正夫氏の翻訳でヴォドピヤーノフというひとの書いた「北極飛行」という本がある。
これは純粋な文学書ではなくて、ソ連の北極探検飛行の記録である。著者も作家ではない操縦士である。彼の指導によって北極の歴史的飛行が完成されたのち、「如何にして空想が現実となったか」という題の記録を『新世界』にのせた。それを米川氏が着目して、ルポルタージュとして上々のものという評価から紹介されたものである。
二百六十頁に満たないこの本は、実に面白い。読み終るのが惜しいと思いながらも一気に読めてしまう。そういう魅力の深い本だが、その内容がまた幾つもの文化上の課題を暗示するのである。
科学を専門とする人は、この本の中から必ずその方面の少くない示唆を受けることだろう。文学の面にふれてもやはり興味をうごかされる点が少くない。
機械的な仕事に没頭している操縦士が、この北極飛行のような滋味ゆたかな報告を書いたということが、先ず、私たちに何かの感想をおこさせるのである。訳者も云っておられるようにヴォドピヤーノフという人が、凡庸の才でないと云うのは確であろう。だが文化のこととして、こういう科学と文学との健全に綜合された才能の発育の可能がどこからこの貧農の子に与えられたのだろうかと考えると、そこには文化上やはり並々でない分化