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ぶんげいじひょう

文芸時評

宮本 百合子

「中外商業新報」1937(昭和12)年7月30日~8月1日、3日、4日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,097 字 · 15 页

青空文庫

をもって、散漫ながら立っている文筆家であろうことと思っていた。「幽鬼の町」は、作者としてはダンテの神曲、地獄篇をひそかに脳裡に浮べて書かれたのかもしれないが、そこに地獄をも見据えて描き得る人間精神の踏んまえ、批判はなくて、作者そのものが、一箇の幽鬼であることを告白している。しかもそれは紙ばりの思想的凧に縛りつけられて下界に向って舌を出しながらふらついているオモチャの幽鬼である。

ダンテの神曲が、後代の卑俗な研究家によって地獄、煉獄、天国の地図をつくられているのにならって、小樽市の現実的な地図などを小説の間に插入している作者の人をくった態度は、唾棄すべきである。或は、小林秀雄氏の所謂「象徴的価値」としての文学的思想の一箇の好典型であるとすれば、作者伊藤氏は少くともこの世に二人の支持的批評家をもち得ることになる。その中の一人に批評家としての自身を考えて。――

批評と創造との仕事が一人の芸術家の内に小林氏のいうように「ディアレクティック」な作用で存在し得るためには、少くとも批判の精神と規準とが、或る場合その芸術家の主観をも超えて鞭うち、観察自省せしめ、引き上げるだけの勇気ある誠実な客観性を具えていなければならない。