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あたらしきシベリアをよこぎる

新しきシベリアを横切る

宮本 百合子

「女人芸術」1931(昭和6)年1月、2月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 12,232 字 · 25 页

青空文庫

自分は歩道を相変らずてくる。てくる。――

だらだら坂を海岸の方へ下る。倉庫が並んでいる。レールが敷いてある。馬糞がごろた石の間にある。岸壁へ出て、半分倉庫みたいな半分事務所のような商船組合の前で荷馬車がとまった。目の前に、古びた貨物船が繋留されている。それが我等を日本へつれてゆく天草丸だった。

そこからは、入りくんだ海の面と、そのむこうに細かく建物のつまった出鼻の山の景色が見える。今太陽は海、出鼻の上を暖かく照らし、岸壁でトロを押している支那人夫の背中をもてらしている。

ウラジヴォストクでは、町の人気も荒そうに思われていた。来て見るとそれは違う。時間の関係か、街はおだやかだ。港もしずかだ。海の上を日が照らしている。

自分は、一口に云えない感情で輝く海のおもてを見た。

СССРの、ほんとの端っぽが、ここだ。

モスクワからウラジヴォストクまで九千二百三十五キロメートル。ソヴェトは五ヵ年計画でここに新たな大製麻工場を建てようとしている。同時に、日本海をこえて来る資本主義、帝国主義を、この海岸から清掃しようとしている。かつてウラジヴォストクからコルチャック軍と一緒にプロレタリアートのソヴェト・ロシア揉潰しを試みて成功しなかった日本帝国主義軍、自覚のない、動員された日本プロレタリアートの息子たちが出入りした。