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あたらしきシベリアをよこぎる

新しきシベリアを横切る

宮本 百合子

「女人芸術」1931(昭和6)年1月、2月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 12,232 字 · 25 页

青空文庫

後から、駅の待合室へ行って見たが、そんな名物の売店なし。又電燈でぼんやり照らされている野天のプラットフォームへ出て、通りかかった国家保安部の制服をきた男に、

――あなたそれどこでお買いになりました? 私売店をさがしてるんですが――

その男は襟ホックをはずしたまんま、手に二つ巻煙草入れをもってぶらついていたのだ。

――こっちです。あの門の中ですが――一緒に行ったげましょう。

プラットフォームをすっかりはずれて、妙な門を入って、どろんこをとび越えたところに、黒山の人だかりがある。のぼせて商売をしている女売子のキラキラした眼が、小舎の暗い屋根、群集の真黒い頭の波の間に輝やいている。樺の木箱、蝋石細工、指環、頸飾、インク・スタンド。

成程これは余分なルーブルをポケットに入れている人間にとっては油断ならぬ空間的、時間的環境だ。少くともここに押しよせた連中は二十分の停車時間の間に、たった一人ののぼせた売子から箱かインク・スタンドか、或はYのようにモスクワから狙いをつけて来ている巻煙草いれかを、我ものにし、しかも大抵間違いなく釣銭までとろうと決心して、ゆずることなく押し合い、かたまっているのだ。